トヨタのミニバンは一体どこに行こうとしているのか?

中国の富裕層にはウケるかもしれないけれど、 あのデザインじゃ趣味悪すぎて買う気になれない! ・・・そう思ったときの有力な選択肢のひとつに、ホンダのステップ ワゴンがあります。

 

CI(コーポレート・イメージ)強化戦略なのか、最近のホンダ車は(N360オマージュのN-ONEを唯一の例外 として)デザイン・モチーフの統一を図っています。

ジェンダーフリーに逆らい、あえてグリコのオマケ風に言うなら「男の子向け」のモチーフに、会社の命運を丸ごと賭けて驀進してしまうことには疑問符を禁じえませんが、「大陸富裕層的悪趣味」より「オタクっぽいけどシュっとしてる」ほうがいい、というヒトも相当数いるようで、ステップワゴンのセールスは発売から3年を経ても、なかなか好調のようです。

わくわくゲート、とは?

まず気になるのが、コレ。 WEBカタログの画像を見ると、ステップワゴンのリアゲートは、真ん中あたりに縦の見切り線(ボディパネルの分かれ目のスキマ)が一本走っています。

「ルノーのKangooみたいに観音開き?」と思うとコレが裏切りの美学で、ステップワゴンのリアゲートは、2通りの開き方ができる設計になっています。

  1. リアゲート全体が、上縁をヒンジに開く(普通の開き方)
  2. リアゲートの左側半分だけが、ゲート中央の縦線をヒンジに、ドアみたいに開く(わくわくゲート)

 

特に2.は、観音開きを推測していた眼には間逆の動きなので、かなり意表を突いたギミックですね。

ステップワゴンではこの機構を、最廉価版(昔で言うDeluxe的な)のB以外の全グレードに装備しています。

3列目シートへのアクセスとして

実用面でもコレがなかなかの優れモノで、なにより3列目シートのアクセスをノーストレスの快適なものにしてくれます。

後ろにドアが付いていたら、2列目シートをそのままにしておいても、乗り降りできますよね。

ホンダにはオデッセイという、当時瀕死だった会社が一気に立ち直り、トヨタが寸分違わぬパチもん(ウイッシュ)をデッチ上げるくらいバカ売れした車種があります。

3列7人乗れるステーションワゴン的なスペックを少しだけ無理して日本のライトバンに詰め込んだパッケージコンセプトは、たしかに当時としては画期的でした。

ただしこの3列シートの3列目に乗るヒトたちは、残念ながら完全に「荷物扱い」。

当時「ぜってー買わねー」と心に誓ったものですが、ホンダは自ら反省と回答を、ココに見せてくれています。

そもそもリアゲートって・・・

また発明大好きメカオタク会社が、ワンボックスのリアゲートが元々持っている鈍重さに対して用意してくれたソリューションとして、子供や女性にとっても歓迎される装備だと思います。

いくらガスダンパーで軽減されているとはいえ、取り外したリアゲートは1人では持ち上がらないくらい重たい部品だし、開くと2m近い高さまで持ち上がってしまう開口部品は、子供だと怪我しかねないし、大人でも宿酔いで弱っているときには持て余します。

特に雨の日は、ゲートの上下動で盛大に水滴が垂れてくるアレを考えると、開閉がなんとも憂鬱になりますね。

ドアノブ位置は地上90cmくらいのところで大人用ですが、おウチのドア同様、わくわくゲートの開閉は子供でも安全に行えるものです。

むかーしむかし、あるクルマに

もちろん1.2.が両方いっぺんに開くと想定外のイヤなことが起こりそうなので、わくわくゲートはどちらか片方だけしか開かないようにメカ的なインターロック機構で施錠されています。

が、これを「画期的~!」と思う若者はワルいオトナに利用されがちなくらい素直すぎるので、歴史に学ぶべきです。

三菱ミニカトッポ、というクルマのことも、ちょっと書いておきましょう。

トッポは今でこそタダの凡庸なトールワゴンですが、かつて初代は思い切ったコンセプトで「フランス車よりジブリっぽい」という名声をほしいままにした、あえてグリコのオマケ風に言うなら「女の子向け」自動車界でも、良い意味で異彩を放つ存在でした。

そのリアゲートもまた独特で、

  1. ゲート全体が右ヒンジで横開きする
  2. 窓部分だけがグラスハッチとして、上縁をヒンジに開く

という2通りの開き方ができる設計になっていて、女子のプライベートユースにも、おしゃれなお店の商用ユースにも、とても便利な装備として歓迎されていました。

 

もちろん両方いっぺんに開くと想定外・・・ということで、この機構自体は28年前に三菱が開発したもの。

わくわくゲート付きステップワゴンの発表は、そのちょうど25年後、つまり三菱の特許の有効期限が切れた年です。

もうひとつエピソードを挿れて、リアゲート三題噺にしておきましょう。

トヨタのハイエースというクルマは、今でこそワークマン常連のイカツい兄ちゃん達のリスペクトも篤い人気高級車種ですが、ついこの間まで、タダの荷車としての長い下積みがありました。

仕事で転がすことはあっても自分で買うものではなく、ワックスなんか廃車までかけてもらえなかった頃のハイエース。 クルマとしては何度もモデルチェンジされていたものの、約20年、リアゲートのパネルは同じ部品のままだったんだとか。

・・・以前にチビれたクルマ関係者に聞いたんですが、まぁ話半分にしておいてください。

収容容量・サイズは?

車幅1,695mmが象徴するように、ステップワゴンは5ナンバーフルサイズの「男の子向け」です。

がっちりボクシーで全高も1,850mmあると、多くのゴンドラ式立体駐車場には入れてもらえませんが、キャビンスペースは実に広く、四角くとられています。

下の画像の情報に加えて、車室幅が1,400mm。

5ナンバーのクルマで望める、事実上の最大スペースに近いと思います。

イマドキは周りもなかなかなので声高には言ってないようですが、ホンダ教典の奥義「MM思想」の体現です。

ただしこの良質の室内スペースを実現するために、「女の子向け」自動車界ではモテモテ装備になっているポケット・小物入れ・棚などは、逆にミニマムです。幅をしっかり取るためか、ドアポケットさえもミニマム。

運転席周りにはダッシュボードに深さ5cmくらいの入れ物が2つありますが、片方は車検証+保険証のファイルで満タンになるとすると、使えるのは事実上1つだけ。

2列目はコンビニフックとドリンクホルダ付きのシートバックトレイ・ポケットがすべてです。

3列目は子供部屋と考えたのか、なぜか左右3つずつのドリンクホルダを装備。

・・・と言う風に、文章でチョコチョコ書き切れるくらいしかないんですよ。ええ。

シートアレンジは?

ホントにそう思わされたのですが、「これ、ファミリーカーとして秀逸そうだし、後席全部たためば仕事で荷物もたっぷり積めるんじゃね?」と思うと、意外とそーでもない、というところが、実に残念。

3列目シートは、大人なら片手で出し入れできる仕掛けで、キレイに床下に納まってフラットな荷室になるうえ、シートを出しているときは、そのぶんの収納空間がトランクスペースになるのでリアゲート近傍までヒトを乗せても、まだ意外と積める優秀さですが、2列目はロングスライドで前後してシートバックが前傾するだけで、それ以上ビクともしません。

2列目の床下はイロイロ詰まっているので難しいのはわかるけど、ココは妥協しないで、もうちょっと頑張ってほしいところだったなー。

たたむのを諦めても、フィアットのムルティプラみたいに「いっそ外しちゃう」っていう暴挙だって、あるんだよ。

製造元は「キャプテンシート」と呼んでいるようですが、2列目の椅子は両方に肘掛けのついた独立性の高いデザインです。

動態調査などなどの結果からは「乗用車はだいたい1~2人乗り、乗ってもまぁ3~4人」って出るのはわかるので、商品性会議とかやると、その場ではコレが正解っていうことになりがちなのもわかるんですが、画像からも感じていただけるでしょうか?

せっかく余計なものを全部取払って幅を確保したキャビンなのに、この2列目シートは「贅沢」ではなく「間延び」です。

大きな会社で仕事が細切れになっているのは仕方がないのかもしれませんが、2列目と3列目がココまでアンバランスだと「LPL(トヨタでいう主査)は何が仕事だ?」と問いたくもなります。

まとめ

お母さんはちょっと取り回しに困る四角くデカい車体で、黄色もピンクもチョイスできないカラーバリエーションで、「男の子向 け」デザインで、ステップワゴンのターゲットは明らかに「お父さん」です。

ファミリーカーとしてカッコいいお父さんに買ってほしいんだとは思うんですが、せっかくあちこちコンセプトで頑張ったのに、2列目シートに代表されるように、なんか中途半端なので、個人的には残念ながら、安くても乗り出し300万円也、高いと400万オーバーを家計から捻出するところまでの情熱が出ません。

荷車ハイエースといっしょでは心外だろうし、ワックスも掛けてもらえるのでしょうが、同じくイマひとつ自分で買うところまでいかないのです。

来年のモーターショウでモデルチェンジだし、改善されるであろう次期モデルに大きく期待します。

ちなみにカタログのすみっこに、エンジンの説明として「アトキンソンサイクルDOHCi-VTEC」って、コソっと、書いてあります。

ちょっと前なら自動車技術会が全米なみに震撼する大事件で、特に発明自慢のホンダなんか目付けの厚いコート紙でリッパな技術資料でも作っちゃうくらいのトピックなのですが、いまやこんな程度の扱いなんですね。

クルマがハイブリッド化して、内燃機関の役目が原動機から発電所へとスイッチしつつある現代、求められるモノが随分変わっていることだなぁ、と。

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